あと数年で廃線かもしれない駅にてお泊まり体験【駅の宿ひらふ】
駅に泊まるということ
駅に泊まる
前職時代はストレスで前歯がいがんでしまうような行為であった駅泊なのだが(下記添付の記事参考)、転職して鉄道の現場から離れ、鉄道を純粋に愛せるようになってからは魅力的に感じざるを得なくなってきた
というか、別に鉄道に興味があろうとなかろうと、日常においてある目的地への通過点でしかない”駅”という場所でわざわざ布団を敷いて眠るという非日常には、誰しもが惹かれるものがあると思う
この導入部分で既に「いつか行ってみたいな〜」と思う人も多いかもしれない
ただ、「いつか」ではもう手遅れになってしまう可能性がある
この駅にはもうすぐ鉄道そのものがやってこなくなるのかもしれないのだ
比羅夫駅の今後
泊まれる駅
その駅は比羅夫駅といい、北海道にある
わかりやすい地名を挙げると、「ニセコの近く」である
この比羅夫駅にて「駅の宿ひらふ」という名前で宿泊施設が営まれている
地図には比羅夫駅を通る手前側の鉄道路線と、海側を走る鉄道路線が見える
どちらも旭川と函館を結ぶ函館本線という名称で、この付近だけ線路が二手に分かれていることから函館本線の海線、山線という呼ばれ方をされている
この手前側の山線が、あと数年で廃線になるかもしれないのである
下の図は、JR北海道が発表した駅別乗車人員(H27−R1の5カ年平均)である
これを見ると、赤の下線で示した比羅夫駅は1日の利用者がなんと3人以下となっており、比羅夫から長万部方面の数駅も10人以下となっている
そしてこの地図にうっすらと水色の点線で描かれているもの、これが函館本線の山線に大きな危機をもたらすものとなる
それは、北海道新幹線である
現在新函館北斗で止まっているものが2030年に札幌まで延伸される
新幹線が新しく建設される際には、「新幹線を通してあげたんだからその新幹線と並行する在来線は自治体が面倒みてね」というルールがあり、自治体を中心に新たに鉄道会社を設立して運営しなくてはならなくなる
今現在も東北や北陸などでそのような新会社の路線が走っているが、多くは赤字である
ただ、鉄道事業そのもので利益を出すというのはそもそも限界があり、単純な収益だけではない様々な副次効果(環境への影響、交通事故の減少、老人の外出機会増加による医療費削減、渋滞抑制による生産性向上、鉄道による地域ブランドの確立 等々・・・)を見込んだ上で「やはり鉄道は必要だ!」となれば自治体から補助金をもらって運営していくようなことになり、現在のところ存続の危機には瀕していない
2030年に北海道新幹線が延伸するにあたり、函館〜長万部〜小樽あたりがおそらく並行在来線として切り離されると考えられる
なぜ小樽〜札幌が切り離されないかというと、この区間は収益が見込めるからである
並行する在来線全てが強制的に切り離されるのではなく、利益の出る区間はJRがそのまま所有してもかまわないことになっている
さて、函館〜長万部〜小樽のうち、函館から長万部は維持せざるを得ない
これは、ここを貨物列車が通るからであり、物流上の観点からも絶対に必要になる
ただし、貨物列車は海線を通るので長万部〜小樽は物流上は必要ない
そして、輸送の観点からも、あまりにも利用者数が少ない
この路線を運営したところで大赤字はもちろんのこと、維持する必要性がそもそもあるかどうかということになってくる
以上のことから、並行在来線史上初めて、自治体が路線を引き受ける前から廃止議論が巻き起こってしまっているのである
そして予想であるが、おそらく廃止されると思う
沿線自治体の今の態度を見ていてもこの路線を死守する気は感じられないし、そんな体力も残っていないと思う
つまり、この比羅夫駅もあと10年以内に列車が来なくなってしまうかもしれないのである
いざ駅へ
長い前置きは一旦端へどけて、実際の宿泊記をやっと書き始める
ずっと行きたいと思っていた比羅夫駅、去年の7月にやっと訪れることができた
飛行機で新千歳に着き、小樽を散策してから比羅夫駅へ
小樽という街はなぜかガッカリスポットとして認識されることもあるけれど(運河の短さ、外国人多すぎなど)建物も食べ物もオシャレに整っててブラつくだけで楽しい街である
小樽から倶知安までは列車があるんやけども、その先は2〜3時間に1本ペースしか列車が来ない区間になる
なので、倶知安から泣く泣くタクシーに乗り、比羅夫駅へ向かうことに
比羅夫駅はまずロケーションが抜群で、ホームからは見えないけれどもバックには蝦夷富士こと羊蹄山がそびえ立つ
宿のオーナーさんのおうちは宿のすぐ横にあり、宿にずっとおられるわけではないので、これもまた駅を私物化してしまったような感覚になれる一つの良い要素だと思う
着いてすぐに一目惚れ
なんと素晴らしい駅だろうか
本当に「なにもない駅」である
ホームと反対側に少しスペースがあるのは、昔は向かい側にもホームがあったんだろうなと想像させてくれる
部屋は本当に簡易的で、これがまた駅で寝てる感を演出してくれる
駅の宿ひらふでは電動自転車を1,000円くらいで貸してくれるので、荷物を部屋に放り込んでニセコ付近へサイクリングに繰り出すことに
羊蹄山の巨大さと美しさは圧巻の一言
そんなこんなで帰ってきたらもう17時頃
今日の客は自分だけらしい
本当はこのシーズンの土曜日に1人なんてありえないらしいのだけど、コロナ禍で客足も遠のいてしまっているそう
夜の過ごし方
さてこの宿のウリのひとつが晩ごはんである
ここではなんとホームにてバーベキューをすることができる
本来であればお客さん同士でバーベキューをして仲良く語らえるらしいのだが今日は自分だけ
お肉は羊肉でこれがまためちゃくちゃうまい
車内の客はこちらを見ても平然としている
駅のホームでバーベキューをやっているという行為、もちろん自分たちからすれば最高に非日常であるけれども、この沿線の人間にはこの光景が日常となっているらしい
日暮れのホームにてサッポロクラシックを飲みつつ
なんと贅沢な時間
お風呂はなぜか丸太風呂 めっちゃ写真ボケてるけど
さすがに乗降人員3人以下の駅だけあって付近に民家など皆無であり、星がめちゃくちゃキレイに見えた
もちろんきちんとした浴室もあるのでちゃんとしたお風呂にも入れる
部屋からボーッと外を眺める
たまに列車もくる たまに
ホームに降り立ってみる
いま完全にこの駅は自分の支配下に堕ちてしまっている
日常と非日常
そして公共と私有
2つの対立要素がそれぞれ融合し、なんともわけのわからないことになる
今この駅はどのような状態を保っているのだろうか
朝
小鳥がチュンチュンと鳴き出し、部屋に光が差し込む
晩以降誰とも触れ合っておらず、この世に自分以外いないのではないかとの錯覚により一般化された模範的市民の1人であろうと努めていた自分
外が明るくなれば起き上がるのは人間として当然のことであるので起きてホームへ行ってみることに
チラっとスマホを見て驚く
まだ3時半であった
北海道の朝は異様に早い
結局寝付けなくなってしまったのでホームにてコーヒーをいただくことに
極上の朝 素晴らし
そうこうしてるうちに自分が乗る列車が来る時間が近付く
なんせ本数が少ないので、自分の好きな時間に出発することなど許されない
昨日から駅で自由奔放に振る舞っていたのに急に束縛された気分になり、逆に心地の良さを覚える
そして列車に乗り込み函館方面へ
駅の宿ひらふ、印象深い宿でした
なにもないのどかな風景に心から癒やされ、この駅が自宅の庭になったような感覚すら味わうことができる
ただ同時にそれは、比羅夫駅の行く末の厳しさも表しているのかもしれない
昨日この駅に来てから自分とオーナーさん以外の人間を見ていない
宿泊したこの日については、駅として機能していなかったのは確実である
そんななか部外者としてできるのは、多少無理をしてでもこの路線に乗り込み、またこの宿や周辺地域へと足を運ぶこと
新設される新幹線の陰で失われるローカル線
今後日本が直面する公共交通の問題点をまじまじと感じさせる、そんなスポットでもあった